大灰廠其の1
〜北京の桃源郷を求めて〜
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私が生まれたころは丁度SLが廃止され、EF15やEF58、EF60などのELが現役で活躍していた時代なので、実のところそんなにSLは執着心がありませんでした。
むしろ幼い頃、SLで「やまぐち」号が脚光を浴びていても、真っ黒いSLよりも国鉄の特急カラーや湘南カラーの列車が好きだった傾向が続いたので、
「ああ〜そういうものも走っているんだ」程度にしか見ていませんでした。
中国列車に興味を持ったのもセンスの無いデザインの動力分散型新幹線タイプに嫌気が差し(JRになってから)、歴史で好きだった中国に目を見ると機関車が客車を牽引するという夢のようなことが続いて
いたのでこちらのほうにのめりこむようになり、現在に至っています。中国に鉄道旅行を始めてSLはまだ数回しか見たことがありません。印象に残っているのは1997年2月、まだ開通したばかりの京九線の
阜陽駅で貨物用のSLが白い煙をモクモクと噴き上げて停車を間近で見た時、養殖の貝の中から黒真珠を発見したような気分でした。
その後ネットの普及により、各諸先輩方の中国SLのHPも色々拝見しました。まだまだ勉強不足ですが、各サイトでSLに対する熱い思いと知識を参考にさせていただきました。中国も現状ではいつSLが廃止になっても
おかしくないみたいで、フアンの間では聖地とされていた通集線(内蒙古:通遼〜集寧)のSLも今年限りで廃止される現実になってきました。自分も出来るなら今年中(2004年)には行ってみたいと思っているのですが、語学の壁と
時間の問題でなかなか行く目途が立っていませんでした。そんな中、このサイトの常連さんである辻本氏と北京でお会いすることになり、「北京でもSLは見れますよ」ということで、9月26日に大灰廠に連れて行ってもらいました。
大灰廠は北京市豊台区の西南の方にあります。地下鉄1号線で古城駅まで行って、そこから385路の(くたびれた)バスに乗り、40分ほど揺られていくと終点の大灰廠に辿り着きます。ここは石灰石を採掘する会社(首鋼総司建材化工廠、以下大灰廠)が採掘場から約2キロ離れた
工場まで石灰石を搬送するため、ちっちゃいトロッコを牽引するC2型SLが走っています。複線ですが、レール幅が762mmでしかもところどころよれているさまが何とも言えない良い味を出しています。
辻本氏によると、「工場入り口に行くと、撮影用で200元取る貼紙があった」のこと。そんな無駄金は払いたくないので、バス停から10分ほど緩やかな坂を上った踏み切りの所で待機していました。
踏み切りに向かっていく途中、汽笛と、鉄のぶつかる鈍い音と、蒸気を吐き出す音が聞こえてきました。時計を見ると14時20分でしたのでもうSLは走っています。普段は2時から4時までというのが通常の運行時間だそうです。20分間隔で交互にやってくる場合もあります。
間近でみるSLは古く小さいけどまだまだ現役といった感じで、鉄道フアンの心をくすぐらせます。また牽引されるトロッコがかわいく、けれども大体20両ありますので、編成的には面白いかもしれません。この日はSLは1号機と4号機が走っていました。踏み切りを越えた先が少し勾配がかかっていて、汽笛と白煙を上げます。
始めは踏み切り付近で撮影していましたが、近くに小山があるので、あとで登って撮影もしました。山頂から見下ろすSLの風景は、ジュース工場内での瓶が回転しているような動きをしていました。9月の秋晴れと葉っぱの色がもう秋を感じさせます。SLはたまに火の粉を飛ばして、辺りの草むらを焼きますが、
別に山火事にはならず、短い時間で自然消火されることが多かったです。今日は日曜日ということで、16時には運行が終わってしまいました。それでも何本も往復したし、すぐ間近でSLを観れたので十分に満足のいく1日でした。帰りはバスの中から永定河を渡りながら遠くに見える沈む太陽と京広線の高架の影が
1日の終わりを感じさせました。
大灰廠はうまくいけば日本からでもその日のうちに着くことのできる場所です。いたるところで建設の槌音が高く聞こえる北京市内ですが、一歩郊外に出ると、のどかでかつ当時の原形を保っているSLを観れる場所があるのです。次に行くなら白煙を上げる真冬に行ってみたいと思います。
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